上司が憎い男~松本清張の雀一羽みたいな
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上司が憎い(憎かった)という男は世の中に五万といるであろう。
求職中の友人は会社から定年退職後、到底受け入れられない再雇用の条件を突き付けられ泣く泣く再雇用を諦める。
会うたび、上司の話を聞かされる。その上司が無理な再雇用の条件を算段し、上申したというのだ。冷静に聞いていると、ミスを重ねた友人にもかなりの責がありそうなのだが、頭に血が上っている友人は、とにかく上司憎しなのである。
この上司も冷静に会社の方針を伝えているだけを装いながら、陰湿な一面も覗かせてしまう。
退職時に言ったはずの、状況が変わっているかもしれないので10月末に電話してきてもよいという話。なかったことになっているのである。
「えっ?あの時から状況は変わっていますからね」
狼狽し懇願する友人を見て楽しんでいるようでもある。
松本清張の雀一羽という作品も、そんなお話。
生類憐みの徳川綱吉の時代、部下が一羽の雀を殺したのを咎められ、左遷された男。左遷した上司を憎んで暮らすこと15年。果ては精神に異常をきたし、幻覚から使用人を上司だと思い込み殺してしまうというストーリー。